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浦和地方裁判所 昭和58年(ワ)24号 判決

原告 後藤誠一

右訴訟代理人弁護士 森勇

被告 沢田徳秀

右訴訟代理人弁護士 近藤利信

主文

一  被告は原告に対し、金一三四万三三四一円及び内金一一九万三三四一円に対する昭和五四年七月二四日から、内金一五万円に対する同五八年一月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金一五九万七〇六〇円及び内金一三九万七〇六〇円に対する昭和五四年七月二四日から、内金二〇万円に対する同五八年一月二〇日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  主文第三項と同旨

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告・請求原因

1  (本件事故の発生)

原告は、昭和五四年七月二四日午前一時四〇分ころ、埼玉県上尾市大字原市三三三六番地先路上において、その運転にかかる普通乗用自動車(大宮五五と七二〇二、以下「被害車両」という。)を信号待ちのため停車させていたところ、後方から進行してきた被告運転の普通乗用自動車(埼五六ち六一六四、以下「加害車両」という。)に追突され、後記のような傷害を負った(以下「本件事故」という。)。

2  (被告の責任原因)

被告は、加害車両の保有者であるから、自賠法三条に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償すべきである。

3  (損害)

原告は本件事故により鞭打ち損傷の傷害を負い、本件事故直後から清水ほねつぎ院に、昭和五四年一〇月一五日から同五五年一〇月一日まで秋谷病院に、同年同月二五日からは豊春中央病院にそれぞれ通院して治療を受けた。また、原告には本件事故の後遺症として、左右肩凝感、頸部痛、知覚鈍麻、左上腕筋萎縮等の症状が残った。

右のような傷害により原告が被った損害は次のとおりである。

(一) 治療費 金三二万七〇六〇円

内訳 清水ほねつぎ院 金二二万二二〇〇円

秋谷病院 金一〇万四八六〇円

(二) 休業損害 金一四〇万円

原告は、その肩書地で肥料等の販売を営む有限会社丸藤(以下「訴外会社」という。)の代表取締役であり、本件事故当時同社から月額金六五万円の報酬を得ていたが、本件事故による傷害のためその職務を十全に遂行しえなくなったため、昭和五四年八月分からはその報酬を月額金五五万円に、同五五年四月分からは更に月額金三五万円にそれぞれ減額された。右報酬の減額による原告の逸失利益は、昭和五四年八月から同五五年九月までの間月額金一〇万円宛としても、金一四〇万円を下廻らない。

(三) 後遺症逸失利益 金四二万円

原告の前記後遺症は、昭和五五年一〇月一日には症状固定をみ、それから少なくとも二年間は継続したが、前記の症状に照らすと、原告は、右期間その労働能力の五パーセントを喪失したとみるべきであり、原告の右後遺症固定時の報酬額は月額金四五万円であるから、右後遺症逸失利益の本件事故時の現価は、次式のとおり金五〇万二二〇〇円となる。

450,000×0.05×12×1.82=502,200

(四) 入通院慰藉料 金七〇万円

(五) 後遺症慰藉料 金五〇万円

(六) 損害の填補 金一九五万円

原告は、本件事故に基づく損害の填補として、自賠責保険から金一九五万円の支払を受けたから、叙上の損害額から右填補額を控除すると、金一四六万九二六〇円となる。

(七) 弁護士費用 金二〇万円

よって、原告は被告に対し、損害賠償として、前記3(六)の損害填補後の残額に同(七)の弁護士費用を加算した金一六六万九二六〇円の内金一五九万七〇六〇円及び内金一三九万七〇六〇円(弁護士費用相当額を除く分)に対する本件事故発生の日である昭和五四年七月二四日から、内金二〇万円(弁護士費用相当額)に対する本件事故発生の日よりも後の日である同五八年一月二〇日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告・認否及び主張

1  請求原因1の事実のうち原告が受傷したとの点を除くその余の事実及び同2の事実のうち被告が加害車両の保有者であることは認める。同3の事実はすべて知らない。

2  被告は、本件事故発生の直前、加害車両を運転して現場附近にさしかかったが、対面信号が赤であったため時速を五キロメートル以下に落として、先行する原告運転の被害車両の背後に停止しようとしたが、車間距離の目測を誤まったため、急ブレーキをかけたが間に合わず、同車両にわずかに追突したものである。このような本件事故の態様からみて、原告に加えられた衝撃はきわめて軽微であり、原告がその主張のような傷害を負うことはありえない。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1の事実のうち、原告受傷の点を除くその余の事実は当事者間に争いがない。なお、《証拠省略》によれば、本件事故の態様として、被告は、本件事故発生の直前加害車両を運転して大宮から栗橋に向い、時速約四〇キロメートルで走行していたが、本件事故現場である交差点手前にさしかかった際、対面信号が赤信号であることを確認したため、自車を停車させるべく時速を約五キロメートルに落して、目を右信号から前方に転じた瞬間、その約五〇センチメートル前方に停車していた原告運転の被害車両を発見し、更にブレーキを踏んだが間に合わず、同車に自車を追突させたこと、原告は、右追突時被害車両のサイドブレーキを引いてこれを停車させていたが、右ブレーキの作動が不十分であったことから、同車両は右追突により約二メートル前方に押し出されたこと、右追突により被害車両は、その後部のフェンダーとバンパーがへこみ、加害車両も前部のフェンダーがへこむ破損を生じたことが認められ、右認定事実によれば、原告が右追突の際にその身体に受けた衝撃は、かなり強い程度のものであったと推認される。

二  被告が加害車両の保有者であることは当事者間に争いがないから、被告は、自賠法三条に基づき本件事故により原告が被った損害を賠償すべき責を負う。

三  《証拠省略》によると、原告は、本件事故により鞭打ち損傷の傷害を負い、後頭部及び頸部に痛みを覚えたため、本件事故発生の日の翌日から昭和五五年八月一九日までの間合計一二〇回にわたり埼玉県岩槻市内に在る清水ほねつぎ院に通院し、牽引、マッサージ、針、湿布などの治療を受け、同五四年一〇月一五日からは右清水ほねつぎ院での治療と併行して同県幸手町に在る秋谷病院にも通院するようになり、同五五年一〇月一日までの間合計二五回にわたり同病院にて注射、投薬などの治療を受け、更にその後同県春日部市内に在る豊春中央病院に通院したこと、原告には、右鞭打ち損傷の後遺症として左右の肩凝感(とくに二〇分ないし三〇分間頸部前出の姿勢で作業を継続すると肩凝感が増大する。)、頸部痛(ただし、時折発生する。)、左第三、四、五指掌面の知覚麻痺などの障害が残り、右症状は昭和五五年一〇月一日には固定したことが認められる。

右認定事実に基づいて、原告が本件事故により被った損害の額について検討する。

1  治療費 金三二万七〇六〇円

《証拠省略》によると、原告は昭和五四年七月二四日から同五五年四月三〇日までの間に治療費として金三二万七〇六〇円を支出したことが認められる(前記認定のとおり、原告は右期間を通じて清水ほねつぎ院に、同五四年一〇月一五日以降は別に秋谷病院にも通院したのであるから、右支出にかかる治療費は、右両院に対して支払われるものと推認されるが、その支払先別内訳を明らかにするに足りる証拠はない。)。

2  休業損害 金一四〇万円

《証拠省略》によれば、原告は、肥料と燃料の販売を目的とする訴外会社の代表取締役であるが、本件事故に遭遇した後は、前記の清水ほねつぎ院及び秋谷病院へ通院する日はほとんど職務に従事することができず、また、本件事故後約一年間は同社の取扱商品等重量物の運搬作業をすると頭重感や頸部痛を覚えたことから作業能率が落ち、これらにより、本件事故前に比べてそのか働率が約五〇パーセント低下したこと、訴外会社は、原告の右か働率の低下を補うため、農閑期に臨時の作業員を雇用したこと、原告は、右のような事情から、訴外会社の他の役員に諮ったうえ、本件事故に遭遇する前一一か月にわたって同社から得ていた月額金六五万円の報酬を同金五五万円に減額する措置をとったこと、なお、原告の右報酬額は、昭和五五年四月分以降は、訴外会社の業績悪化を理由として更に月額金三五万円に減額されたことが認められる。

右認定事実によれば、訴外会社が昭和五四年八月分以降原告の報酬月額を金一〇万円減額した措置は、原告の労務の対価に相当する部分の減額であり、かつ、右措置は本件事故と相当因果関係があることが明らかであるから、原告は被告に対し、休業損害として、同年同月から同五五年九月まで(一四か月)一か月金一〇万円の割合による金員を請求しうるというべきである。

3  逸失利益 金二一万六二八一円

前記認定にかかる原告の後遺症の内容及び程度に照らせば、右後遺症は自賠法施行令二条別表の後遺障害別等級表の第一四級に該当し、これにより原告はその労働能力の五パーセントを喪失したこと、右後遺症の継続期間は二年間とみるのが相当である。ところで、原告は前記のとおり、訴外会社の代表取締役であるから、その報酬は労務の対価たる部分と同社の利益配当にあたる部分とによって構成されるとみるべきであり、本件事故に起因する労働能力喪失による損害は、その性質上右労務の対価部分についてのみ観念しうるものであるところ、前記二2の認定にかかる原告の報酬減額の経緯に鑑みれば、原告の右労働能力喪失による逸失利益は、右後遺症固定時において、その報酬のうち労務の対価として受くべきであった額を基準として算定されるべきである。この点に関し、原告は、原告の右後遺症固定時における報酬月額は金四五万円とみるべきである旨主張するけれども、右主張にかかる金額が、すべて原告が労務の対価として得べきものであったことを認めるに足りる証拠はない。わずかに、前記認定のとおり、原告は本件事故直後の昭和五四年八月分からその報酬月額を金一〇万円減額されていること、本件事故発生の日から約一年間、原告のか働率は従前のそれの約五〇パーセント程度であったことから推すと、原告が右後遺症固定時において訴外会社から得べきであった労務の対価は、少なくとも月額金二〇万円であったと認むべきである。そうすると、本件事故に起因する原告の後遺症による逸失利益の本件事故時の現価は、次式のとおり金二一万六二八一円となる。

200,000円×0.05×{35.2074(昭和54年8月から同57年9月までの38か月に対応するホフマン係数)-13.5793(昭和54年8月から同55年9月までの14か月に対応するホフマン係数)}=216,218円

4  通院慰藉料 金七〇万円

前記認定にかかる原告の本件事故による受傷の程度、通院期間、通院頻度等を勘案すれば、その通院慰藉料は金七〇万円とみるのが相当である。

5  後遺症慰藉料 金五〇万円

前記認定にかかる原告の本件事故に起因する後遺症の程度、内容、その継続期間等を勘案すれば、その後遺症慰藉料は金五〇万円とみるのが相当である。

6  損害の填補 金一九五万円

原告が本件事故による損害の填補として自賠責保険から金一九五万円の支払を受けたことは原告が自認するところであり、これを叙上の損害額から控除すると損害残額は金一一九万三三四一円となる。

7  弁護士費用 金一五万円

原告が本件訴訟の提起及び追行を本件原告訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであるが、本件の訴訟経過、事案の難易、認容額等に鑑みるときは、原告が被告に請求しうべき弁護士費用額の本件事故時の現価は、金一五万円が相当である。

四  そうすると、原告の本訴請求は、被告に対し、損害賠償として金一三四万三三四一円及び内金一一九万三三四一円(弁護士費用相当分を除く分)に対する本件事故発生の日である昭和五四年七月二四日から、内金一五万円に対する本件事故発生後の日である同五八年一月二〇日から各支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小池信行)

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